「おい、」
    「ぁ、ぁ、ぁ、」
    「満足したかよ」
    「ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、」

    机の上で四肢の自由を奪われた暗い暗い私の視界で、黒山墨字が闇に光り逆光を背負っている。私の足を邪魔だと言わんばかりに掴み、離さない。何が満足というのか。
    打ち上げが終わる寸前、景さんの事で話があるとまた呼び止められ、背中を押されて入れられたのは真っ暗な小部屋。あ、と声を出しかけた。まさか、と何も見えない中で反射的に振り返ったのと、その男が手を動かしたのは同時だった。

    動けなかった。その男の怒りの圧に、言葉に、押し潰され、

    「クソ、あいつの父親とキョーダイんなっちまったじゃねぇかっ」

    腰を打ち付けてくるその男は、そう言って真下にいる私の、抜き差しを繰り返してる秘部を見つめている。こんな、こんなにも気持ちの伴わない行為でも身体というものは器用に濡れる。いつか読み漁った本によると女の身体にある自己防衛機能だったか。この男は何が楽しくてこんな乱暴をしているのだろう。早く終わらないだろうか。やはり偽物の喘ぎ声では駄目か。
    小さく揺れるボサボサした髪を見ていたら、その男の視線が舐めるように上に上がってきた。力の入らない足は気が済んだらしい。息も荒く胸元に手を差し入れたかと思うと、服をたくし上げられる。それぞれの左右の胸に手と顔を埋められ、腰を打ち付けられながら胸も責められる。顔を背けようとした時、黒山墨字の大きな手が顔を覆ってる事に気付いた。強く机に押し付けられ、息も苦しい。

    「バカ女、千秋楽まで参加できて満足か。夜凪に感謝しろよ」

    何を言っているのか。今更、感謝どころでは無い。
    黒山墨字は、何も言わない私の肩を両手でゆっくりと優しげに撫で、深い息をしながら腰の動きを緩めた。殊更、くちゅん、とゆっくりと音を立て味わうように、もしくは味あわせるように動き、荒々しい息遣いの中で真下にいる私に向かって穏やかに言い放つ。

    「もう、クソみてぇな事すんなよ。あれは、大黒天の女優だ」

    その視線は、真下にいるこちらを見ているようで見ていない。
    しかし目が合い了承したと思ったのだろう、力の入らない身体を反転させられ、背後から胸を掴まれたまま穿たれる。苦しくて、小さく悲鳴を漏らすと、あぁ、と獣の呻き声がのし掛かる。

    「山野上、イきたきゃイけ」

    イった振りができるだろうか。否、もう関係ないだろう。胸元を弄び、呻き、奥に叩きつけながら絶頂が近くなったらしいその男は、脱力した私の手を遠慮なく使い、その中で果てた。

    中に出すわけにはいかねぇよなと、私の衣類を整え、部屋の照明やエアコンを点け、毛布を投げ付けて出て行く黒山墨字。
    あの男が何をしたかったのか分からない。分かるのは、今、自分が身も心も乾いて空になりそうな事。

    そして、放たれた言葉に肯定していないのを黒山墨字が気付いていない事。
    それだけは分かった。
    それ以外は何も分からない。




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